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【米国】ISM製造業景気指数、6月は49.0を記録し市場予想と前回結果を上振れ、ただし4ヶ月連続で景気縮小圏 | 日本とアメリカの重要な経済指標を分かりやすく解説 | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア
2025年7月1日(火)23:00発表(日本時間)
米国 ISM製造業景気指数
【1】結果:市場予想を上振れ前月から改善も4ヶ月連続で景気縮小圏
6月の米ISM製造業景気指数は、前月から0.5ポイント上昇の49.0となり、市場予想の48.8を上回りました。ただし、景気の分岐点とされる50を4ヶ月連続で下回っており、景気縮小圏での推移が続いています。
一方で、経済全体では一般的に、指数が42.3以上であれば景気拡大とみなされますが、今回もこの水準を上回り、景気拡大は62ヶ月連続となりました。
※製造業の拡大・縮小を判断する基準値は50ですが、製造業が経済全体に占める割合は1割程度であることから、指数が50を下回ったとしても、経済全体としては必ずしも縮小を意味するわけではありません。米供給管理協会の回帰分析に基づく調査によると、過去のISM製造業景気指数と米国GDP成長率の関係から、指数が一定期間42.3を上回れば、一般的に経済全体(GDP)は成長していると解釈されます。
【図表1】ISM製造業景気指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成
※市場予想はBloombergがまとめた市場予想の中央値
【2】 内容・注目点:生産指数が総合指数を押し上げるもその持続性には疑念あり
そもそもISM製造業景気指数とは
ISM製造業景気指数は、全米供給管理協会が製造業300社以上の仕入れ担当者に生産状況や受注状況、雇用状況等の各項目についてアンケート調査を実施し、その調査を基に製造業全体のセンチメントを指数化した指数です。企業のセンチメントを反映しており、景気転換の先行指標とされること、また主要指数のなかでは最も早く発表されることから注目が集まります。
6月結果の詳細・内訳
【図表2】ISM製造業景気指数、各項目まとめ
※太字は総合指数の構成要素
※トレンド(月)は、項目が50を上回る、または50を下回る状態が継続した月数を表す
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成
図表2のとおり、総合指数を構成する5つの要素(新規受注、生産、雇用、入荷遅延、在庫)のうち、前月比でプラスとなったのは「生産」と「在庫」の2項目です。特に生産指数は前月から4.9ポイント上昇しており、総合指数の押し上げに大きく寄与しました。
この生産指数の改善はポジティブな材料ではあるものの、ISM製造業調査委員会のスペンス委員長は、輸入指数が7.5ポイントと大幅に上昇した点に言及し、今回の生産の増加は、関税停止期間中に企業が大量発注を行った影響かもしれないと指摘しています。そのため、生産の持続性には懸念が残るとしています。
実際、景気の先行指標となる新規受注は1.2ポイント低下の46.4と縮小圏での推移が続いており、雇用指数も1.8ポイント低下の45.0と低調で、企業の慎重姿勢がうかがえる内容となっています。特に、雇用に関しては採用に関するコメント1件に対し、人員削減に関するコメントが3.2件に上ったと報告されており、これはISMが統計を開始して以来、最も悪い比率のひとつとされています。
また、在庫指数の増加についても、総合指数を支える要因ではあるものの、新規受注が増加していない状況においては、在庫の積み上がりが「受注-在庫バランス」の悪化を招き、生産活動の持続性に不安を生じさせます。
【図表3】受注-在庫バランスの推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成
ただし、顧客側の在庫指数は46.7と依然として「低すぎる」とされる水準にあり、この点は将来の生産指数にとってはポジティブな要素だと言えるでしょう(※顧客在庫が少なすぎる場合、顧客は将来的に発注せざるを得ないため)。
支払価格指数はやや上昇 関税の影響根強い
総合指数の構成要素以外では、支払価格指数が前回の69.4から69.7へとわずかに上昇しました。支払価格指数は過去6ヶ月で17.2%上昇し、コロナ禍以来の高水準に達しています。企業担当者のコメントからは、関税の影響によるコスト上昇が強く意識されていることがうかがえます。
もっとも、ISMの支払価格指数はあくまで企業担当者の実感を反映した主観的な指標であり、金融政策の先行きを判断するうえでは、CPI(消費者物価指数)やPPI(生産者物価指数)、PCE(個人消費支出)価格指数といった実際の物価指標の動向を注視する必要があります。
【図表4】ISM製造業支払価格指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成
先行性を持つ化学製品業界の状況の悪さが際立つ
業種別では、6大製造業のうち4業種(石油・石炭製品、コンピューター・電子製品、機械、食品・飲料・たばこ製品)が拡大を示した一方で、総合指数が45を下回る企業の割合(GDP比)が前月の5%から25%へと急増しています。なかでも、最大の製造業である化学製品業界では、総合指数が43.5、雇用指数は39.0と深刻な水準となっており、業界全体の低調ぶりが際立ちます。
化学製品は他の製造業への投入財として広く供給されており、景気の先行指標的な役割を果たす業種と言えます。この分野の悪化は、今後の製造業全体の減速を示唆するリスクとして懸念が募ります。
【3】所感: 数値は改善するも中身は乏しく先行きは不透明
今回発表された6月のISM製造業景況指数は、ヘッドラインの数値が市場予想を上回り、前月からの改善を示しました。ただし、改善の主因は生産指数の上昇によるものであり、その持続性については不透明感が残ります。構成項目を詳しく見ると、依然として全体として力強さに欠ける内容であり、楽観視できる状況ではありません。
また、企業担当者のコメントには、やはり関税を巡る不確実性への懸念が多く寄せられており、現場レベルでの警戒感が根強く感じられます。そして、相互関税の上乗せ部分の一時停止期間が切れる7月9日が迫っており、関税政策の不確実性は引き続き懸念要因として大きく残っています。
今回の調査結果は、明確な悪化が示されたわけではなく、市場に一定の安心感を与えるものではありますが、関税の影響を含め、先行きの見極めにはなお時間を要するとの印象です。こうした状況下で、金融政策の見通しについても、FRB(米連邦準備制度理事会)内で意見の分かれが見られはじめています。パウエルFRB議長は早期の利下げに慎重な姿勢を維持する一方で、ウォラー理事やボウマン理事はより早期利下げを支持するなど、スタンスの違いが表面化しています。
今週は、ISM非製造業景況指数や雇用統計の発表も予定されており、金融政策の方向性を占ううえで、引き続き主要経済指標の動向に注目が集まります。
フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐